走塁練習に取り組む林選手(駒大苫小牧高で)


(読売新聞オンライン)夏の甲子園で2度の優勝を誇る駒大苫小牧高野球部で、初の留学生の主将が誕生した。台湾出身の 林逸洋リンイヤン 選手(2年)は甲子園優勝を目指し、約60人の部員を束ねている。

   「ランナー準備しっかり!」「声止めるな!」。田中将大投手(楽天)や伊藤大海投手(日本ハム)らプロ選手を育てた伝統のグラウンドに、林選手の掛け声が響いた。日本語の学習を始めて約3年とは思えないほど自然な発音だ。
 

    一方で、「実は会話の3分の1くらいは理解できていなくて、想像で補って話しています」との言葉通り、言いよどむことや、発音で苦戦することもある。そんな言語の壁がありながらも、主将を任された。

 小学2年のときに家族と初めて訪れた札幌ドームで、日本野球に魅せられた。母国の英雄・陽岱鋼選手が躍動する姿と、観客席の熱気が少年の心を熱くさせた。以来、日本でプレーすることが夢になった。

 中学3年になると、練習の合間に日本語の塾に通い、留学の準備を進めた。「野球を厳しく学べる環境がいい」と台湾の留学エージェントに希望を出したところ、駒大苫小牧高が候補に。他校も選択肢に挙がる中、同校の練習を見学した際にあいさつやランニングの迫力に圧倒され、入学を決めた。

 入学直後は日本語でつまずいた。敬語の使い方は想像以上に複雑で、早口で進むミーティングについていけないこともあった。そんなとき、支えてくれたのが仲間だった。寮の同部屋だった北野佑一郎選手(2年)は、ミーティング後にゆっくりと内容を共有し、部屋で敬語の「特訓」に付き合ってくれた。日本語で的確な指示を飛ばせるようになったのは、同級生の「恩師」のおかげだ。

 もちろん、仲間から与えられるばかりではない。北野選手は「海を越えて野球をしに来る覚悟、ハングリー精神にみんな刺激を受けている」と影響力の大きさを語る。「人間性は文句なし。仮に言語の壁があっても、周りが支えることでチームがより一つになれる」という佐々木孝介監督の考えもあり、主将に任命された。

 日本でプレーするという夢はかなえたが、今は新しい目標がある。高校野球の聖地・甲子園でプレーし、勝つことだ。「勝敗の責任を負うのはキャプテン。甲子園で勝つための練習ができるよう引っ張っていく」。迷いのない言葉には、覚悟の強さが表れていた。

 来春の選抜大会の出場校を選考する際の参考となる秋季高校野球の室蘭支部予選は28日に始まる。